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CA3

(1)CA3への入力
[“海馬”を究める 池谷祐二 http://gaya.jp/research/index.htm]

嗅内皮質の第Ⅱ層に存在する神経細胞は、「貫通線維(Perforant Path)」という通路を経由して、歯状回や海馬のCA3領域に投射している。貫通線維という名前は、軸索が海馬支脚を“貫いて”、軸索が投射していることに由来している。内側嗅内皮質の細胞は歯状回分子層の中間層に特異的に投射し、一方、外側嗅内皮質は分子層の外側三分の一の部分に投射している。これらの二種の貫通線維は、CA3やCA2の網状分子層にも同様な層状パターンを形成している。
CA3野への皮質下入力の主要なものは中隔核からのものである。歯状回のときと同じく、中隔核からの投射は、主に、内側中隔核とブローカー対角束核から来ている。この投射は、主に上昇層に終止しており、放線状層に投射するものは少ない(Nyakas et al., 1987; Gaykema et al., 1990)。やはり歯状回のときと同様、GABA性の入力は主にGABA性の介在細胞に投射している(Freund and Antal., 1899; Gulyas et al., 1990)。

 CA3野はまた青斑核からノルアドレナリン性の入力を受けている。この神経終末のうち太い線維のものは主に網状分子層の最表層部と透明層に密集しているが、細い軸索叢はCA3全体にわたって分布している。セロトニン作動性はCA3に広くまばらに投射しており、ドパミン性の神経支配はきわめて少ない(Swanson et al., 1987)。歯状回と同様、セロトニン作動性の投射はまばらだとはいえ、錐体細胞の遠位樹状突起に投射するタイプの介在細胞にシナプスを作る傾向がある(Freund et al., 1990)。

(2)CA3からの出力
[“海馬”を究める 池谷祐二 http://gaya.jp/research/index.htm]

CA3野の錐体細胞は非常に側枝化された軸索を持っており、それらの線維は、海馬内(CA3、CA2、CA1野)や、対側の海馬(交連投射、commissural projection)、もしくは中隔核に投射している。CA3野の錐体細胞(とりわけ歯状回に近いCA3c部位の細胞)とCA2野の錐体細胞は、歯状回門にもわずかながら投射している。

 CA3とCA2の錐体細胞は例外なく、海馬の全領域へ分散的な投射を行っている(Ishizuka et al., 1990)。このうちCA3とCA2に投射するものは、「連合線維(associational connection)」と呼ばれており、CA3からCA1への投射は「シャッファー側枝(Schaffer collateral)」と呼ばれている。CA3からCA3へ、およびCA3からCA1への投射の空間的配置は明瞭であり(Ishizuka et al., 1990)、これについては後に述べる。

 すべてのCA3とCA2錐体細胞はCA1への投射を持っているが、そのシナプス終末の空間配置は起始細胞の空間配置と鏡像の関係にある。古くは、CA3野の錐体細胞は一本の軸索をCA1の全領域に対して均等に送っており、そこで偏りなくシナプス結合を形成しているとされていたが、これは明らかに誤りである。むしろ、特定のCA3錐体細胞は特定の場所に存在するCA1錐体細胞により高確率で投射している。歯状回に近い位置に存在するCA3cの錐体細胞は、septal側にもtemporal側にもかなりの距離まで投射しているものの、どちらかといえばseptal側のCA1に投射する傾向がある。逆に、CA1野に近いCA3a錐体細胞は、むしろtemporal側のCA1野により強い投射をしている。Septotemporal軸の面内での投射について言うのならば、CA3の中でも近位(CA3c)に位置する細胞はCA1野放線状層の浅い部分(網状分子層に近い部分)に投射し、遠くに位置する細胞(CA3a)は、CA1野放線状層の深い部分(細胞体層に近い部分)または上昇層に投射している。同様にして、歯状回に近いCA3c錐体細胞は、CA1のなかでも遠いCA1a部分(つまり海馬支脚に近い部分)に投射する傾向があり、CA3a錐体細胞はCA2との境界付近に存在するCA1cに投射する傾向がある。

 septotemporal軸、transverse軸に拘わらず、一般に、高密度にラベルされる終末(および線維)は、起始細胞からseptal側のレベルでは、CA1野放線状層の細胞体側の部分または上昇層に、また、起始細胞からtemporal側のレベルでは、上昇層の投射はなく、CA1野放線状層の網様分子層側に投射する。シャッファー側枝はしばしば放線状層だけに投射しているように勘違いされがちだが、上昇層にも同じくらい強く投射しているという事実にはもっと目を向けられるべきである。つまり、シャッファー側枝はCA1錐体細胞の尖端樹状突起と基底樹状突起の両方に強い影響を与えていることになる。また、放線状層を走った後に上昇層に入り込むシャッファー側枝さえもあり、この場合には同一の軸索が、尖端樹状突起と基底樹状突起の両者に投射していることになる(ただし別のCA1錐体細胞であるが)。

 一つのCA3錐体細胞が多数のCA1錐体細胞に投射していることは重要である。一つのCA1錐体細胞は、少なくとも5000の同側CA3錐体細胞から投射を受けていると想定されている(Amaral et al., 1990)。このシナプスは非対称型で、CA1樹状突起のスパインに結合している(図8)。スパインやシナプス終末の大きさや形は、一定でなく、かなりばらついており、CA1シナプスの生理的な意義に関与しているのではないかと考えられている。ShepherdとHarris(1998)は電子顕微鏡で75ものシャッファー側枝断片を解析するという非常に骨の折れる作業を行った。彼らはシナプスが軸索に沿いだいたい2.7 µmの間隔で存在することを発見した。このうち68%のシナプスが単一のシナプス後部肥厚(postsynaptic density)を有しており、19%が2~4個、13%にはシナプス後部肥厚は見つからなかった(ここではシナプス小胞が集積している場所をシナプスと定義している)。


(3)CA3の内部
[“海馬”を究める 池谷祐二 http://gaya.jp/research/index.htm]
CA3からCA3へ投射する連合線維もまた高度な秩序をもった投射形態をもっており、やはり放線状層と上昇層の両者全体にわたって投射している。この投射に特有な性質は、歯状回の近くに存在するCA3c錐体細胞は、septotemporalレベルで近い位置に存在するCA3錐体細胞に主に投射しているということである。一方、より遠位のCA3a錐体細胞はtransverse面全体に投射しており、septotemporal方向への投射もかなりある。

 連合線維(CA3-to-CA3)とシャッファー側枝(CA3-to-CA1)の重要な特徴は、septotemporal方向へ強い投射があるということである。一個のCA3(またはCA2)錐体細胞の軸索網だけで、海馬のseptotemporal軸の75%をも埋め尽くしている(Tamamaki et al., 1984, 1988)。Liら(1994)は細胞内標識法によって、CA3錐体細胞一つでも、その軸索叢の総計長は150-300 µmにも達し、30000-60000個も標的細胞を持っていることを明らかにした。

 ラットでは、サルとは異なり(Amaral et al., 1984; Demeter et al., 1985)、CA3錐体細胞は対側海馬のCA3、CA2、CA1領域にも交連線維を送っている(Swanson et al., 1978)。一つの錐体細胞が、同側と対側に同時に投射している(Swanson et al., 1980)。多少の左右差はあるものの、交連線維は大まかには連合線維と似たような空間配置をとり、同側海馬と類似した部位へ投射をしている。たとえば、ある線維が同側の放線状層のある場所に強い投射していたのならば、この線維は対側でも放線状層の同じ部位ににより強い投射をしている(Swanson et al., 1978)。歯状回の交連線維の場合と同様、対側に投射するCA3線維も、スパイン上に非対称型のシナプスを作っており(Gottlieb and Cowan, 1972)、介在細胞には滑らかな樹状突起上に直接シナプスを作っている(Frotscher and Zimmer, 1983)。
 CA3野の特徴の一つは、錐体細胞同士が強く相互に連結しあっていることである(MacVicar and Dudek, 1980; Miles and Wong, 1986)。この再帰経路は、グルタミン酸作動性であるため、CA3回路はフィードバック興奮経路を含んでいることになる。必然的にCA3回路の挙動は不安定になる。そもそも、CA3錐体細胞自体はバースト発火を引き起こしやすいこともあり、わずかでも興奮抑制比が崩れると、CA3回路はてんかん様発火を発する。このてんかん様発火は、かなりの数の神経細胞が同時発火し、自発的に生じるが、リズムは定期的である(Traub and Miles, 1991)。CA3のてんかん様発火は、CA1やその先の脳領域にまで広がっていく。実際、てんかんの多くタイプでは、CA3野のように再帰回路を含む領域で、興奮と抑制のバランスが崩壊することから生じると信じられている。

 CA3再帰回路はまた「鋭波(sharp wave)」を生み出す部位でもある。これは少数のCA3錐体細胞グループが同期したバースト発火を起こすことによって惹起されると考えられている。この鋭波は、覚醒しながら安静している時、もしくは「徐波睡眠(slow-wave sleep)」の時に観察され、記憶形成に関係していると見られる(Buzsaki et al., 1989)。実際、再帰回路は連合記憶を可能にする基本構造であるといわれている(Kohonen, 1978)。この「パターンコンプリーション仮説」は、CA3錐体細胞のみでNMDA受容体遺伝子を除去したマウスによって、ごく最近、直接証明された。このマウスは、仮説から予測されるように、きわめて特定の記憶(つまり連合記憶)だけが障害を受けていた(Nakazawa et al., 2002)。

(4)CA3の機能
①CA3の出力切断による影響
[シリーズ脳科学 認識と行動の脳科学 田中啓治2008 東京大学出版会P170]
ラットのSchaffer側枝をナイフカットしても環状水迷路を用いた空間的な再認記憶が正常に獲得され、CA1の場所細胞活動も正常だった。(Brum et al.,2002)

 ②CA3のNMDA受容体のない変異マウス
[シリーズ脳科学 認識と行動の脳科学 田中啓治2008 東京大学出版会P171-P172]
CA3のNMDA受容体がなくても変異マウスは空間参照記憶をまったく正常に学習することを確認した後、プローブテストの際、空間的視覚手がかりの多くを除いて一部の視覚手がかり刺激でプラットフォームのあった場所を泳ぐことができるかを調べると、変異マウスはその場所に素早くたどりつき正確に泳ぐことができなかった。さらに、慣れ親しんだ部屋での対象マウスのCA1場所細胞の発火特性は空間的視覚手がかりの多くを除いても普遍なのに、CA3 NMDA受容体のないマウスは著しく減弱することが確かめられた。
また同じCA3 NMDA受容体欠損マウスを一指向性の文脈性恐怖条件付けして、3時間後の想起時に2つの文脈を識別できるかが最近評価され、この変異マウスもpattern separationが障害障害されていることが確かめられた。(Cravens et al.,2006)

 ③歯状回とCA3のパターンセパレーションの違い
[シリーズ脳科学 認識と行動の脳科学 田中啓治2008 東京大学出版会P172]
 Moserのグループの実験。pattern separationを評価するために、正方形から円形に形が微妙に変化していく一連のopen field郡(morph)の中で各形で10分ごとに記録をとり、場所細胞の時空間的共発火の程度を評価した。歯状回顆粒細胞も場所細胞活動を呈するが受容野ピークを複数形成する特徴がある。この細胞は正方形から円形に形が微妙に変化していくにつれて場所受容野も敏感に反応変化した。また、よりおおきな変化として、部屋を変えてその中で正方形どうしの活動を比較すると、同じ細胞が発火し続け、新たに細胞は動因されない傾向にあった。他方、CA3細胞は正方形から円形に形が微妙に変化しても、元の発火パターンを維持しようとし、あるところで突然円形パターンに変化した。歯状回顆粒細胞は皮質性入力の微妙な差を広げる作用をし、入力の差がもともと大きければ何もしない。CA3細胞は皮質性入力の入力の微妙な差にはpattern completionしたかのように反応せず、より大きな差のある入力には新たな場所細胞を動因するglobal remappingの手法でpattern separationを起こした。

[考える細胞ニューロン 櫻井芳雄 講談社 P64]
どの場所に選択性を持つかは、ニューロンにより異なっているが、それは必ずしも固定しておらず、置かれた状況の変化やそこでの経験により、選択性を示す場所も変化する。また場所に対する選択性は、ラットが自らそこへ移動した時にのみ見られ、受動的にそこへ運ばれた時には見られない。

 ④数学モデル
[シリーズ脳科学 脳の計算論 深井朋樹編2009 東京大学出版会P7-8]
CA3_c0228570_90180.jpg

出力の発火頻度y(t)は入力xj(t)の重み付け線形和を、出力関数gに通したもので与えられる。

(5)推論・仮説
  ①場所細胞
   ラットのSchaffer側枝をナイフカットしても環状水迷路を用いた空間的な再認記憶が正常に獲得され、CA1の場所細胞活動も正常だった。このことはSchaffer側枝はCA3の出力であることからCA3が場所細胞の生成に関与していないことを示している。CA3や歯状回は場所細胞に関連しているかもしれないが、場所細胞を生成しているとは考えにくい。
  ②再帰回路の役割は何か。
   再帰回路は海馬では特異な回路であり、その役割は何か。
   a.シュミットトリガー回路
     入力電位の変化に対して出力状態がヒステリシスを持って変化することを特徴とする回路
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               図1 シュミットトリガー回路
   CA3細胞は皮質性入力の入力の微妙な差には反応せずをシュミットトリガー回路で仮定すると、CA3の
出力は0,1の2値に変換される。2値に変換するのがいいかが疑問。またシュミットトリガ回路は錐体細胞自体で構成できる機能でわざわざ再帰回路で構成しなければならないのであろうか。
   b.保持回路
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               図2 保持回路
    図2において、短いパルスに対して出力を入力に戻すことで、パルス幅を変更できる。この場合RESET信号でパルス幅を制御できる。
   c.再帰回路は周辺の細胞にも入力となっている。
    再帰回路はCA3錐体細胞からでて自分の細胞にたいしてのみ再帰しているわけではなく、周辺の錐体細胞にも再帰している。周辺の錐体細胞に対して抑制作用を及ぼしていた場合側抑制回路とみなすことができる。空間的な配置が保たれている場合側抑制はエッジ検出などの作用が想定できるが、位置的な関連性が低いCA3で側抑制の意味は考えにくい。
  ③global remappingを生成するためにCA3の役割は何か。
    歯状回とCA3の相違点としてはCA3は入力の微妙な差には反応しないことである。
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               図3 CA3の接続
  図3において貫通線維と苔状線維の関連は何か。
  ④歯状回顆粒細胞を遅延素子と考えた場合
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               図3 変化検出回路
  図3において歯状回顆粒細胞を遅延素子と考えた想定した場合CA3の錐体細胞の出力は貫通線維の時間的な変化を検出することができる。疑問としては歯状回顆粒細胞の遅延時間である。1段の細胞はせいぜい数十ミリ秒であることから、この程度の遅延時間の変化検出が意味を持ちえるのだろうかという点が疑問である。
  ⑤CA3のパターン補完について
   パターン補完はCA3が機能していれば空間的視覚手がかりの多くを除いても著しく減弱しない。
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  ⑥パターン補完回路(パターンの補完をする回路)
   パターンの補完とは部分パターンから全体パターンを生成すること。
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               図4 パターン補完
   図4はシナプスで入力に対して重み付けした場合、完全に同じパターンでなくても、類似した入力があれば、出力することが可能である。(重み付けをどのように学習するようにしたらいいかに関しては別に考えなくてはならないが。)
               図5 パターン補完構成
   図5はパターン補完を海馬で行っていると想定した場合のニューロン構成で、このニューロン構成をもとに推論する。
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              図6 パターン補完構成2
   図6は貫通線維と歯状回顆粒細胞の出力である苔状線維とはCA3錐体細胞の接続の違いから別系統とした。貫通線維を入力データとし、苔状線維を書き込み信号(書き込みトリガー信号)とするなどといった考えかたも可能である。また苔状線維がCA3錐体細胞に複数入力しているのはglobal remappingを考慮している。
CA3_c0228570_1057291.jpg

              図7 苔状線維との接続
   図7は歯状回の苔状線維との新規接続を示す。この苔状線維との接続では新生細胞の苔状線維を想定しており、複数の苔状線維の入力に対して新生細胞の苔状線維を追加していくと想定している。この追加は条件があり、既存の苔状線維による発火がないことである。この条件は既存の苔状線維による発火との干渉を防止するためである。 
(6)疑問点・課題
  ①場所情報の生成領域はどこか
   CA3の出力(シェーファー側枝)をナイフでカットしてもCA1の場所細胞活動も正常だった。このことからCA1の入力である貫通線維からの情報が場所細胞の情報も含まれると想定され、嗅内皮質からもたらされると想定される。嗅内皮質の機能としてはあまり高機能な働きができる領域とは想定できない。場所細胞の情報の生成元は嗅内皮質以前の領域で生成していると考えられる。
  ②CA3のノックアウトマウスなどで得られたCA3の機能
   CA3の機能は果たしてCA3の機能であろうか。つまりCA2や海馬台などのが構成されたシステムでの機能と考えることが必要ということではないのだろうか。 
by brain_designer | 2010-01-08 11:08 | CA3